生前対策について

遺言書を書いておきましょう
相続税がかかるかからないにかかわらず、「その時」に備えて、残された家族が相続にあたり円満に向
き合えるように遺言書を残しておくことが大切です。遺言書は、遺産分割協議ばかりでなく、法的効力
はないとしても「付記事項」として残された家族にその想い伝えるためにも重要なものです。
遺言には、通常、法律で定められた形式により「自筆証書遺言」、「公正証書遺言」等がありますが、
安全性、確実性の観点から「公正証書遺言」が勧められます。
特に遺言書が必要な場合とは、夫婦間に子供がいない、相続人がいない又は行方不明の相続人がいる、
分割しにくい不動産がある、内縁の妻がいる、先妻と間に子供がいる、事業用資産や同族会社の株式が
ある、等が典型例です。
遺留分について理解しておきましょう
相続財産は被相続人のものですから、本来、被相続人は自己の財産を自由に処分できますが、相続財産
の一定割合について、一定の相続人に確保するために設けられたのが、「遺留分」の制度です。
遺留分を侵害されている相続人は、遺留分を侵害している受遺者や受贈者、あるいは他の相続人に対し
てその侵害額を請求することができます。相続人が、法定の要件に従って、遺留分の権利( 遺留分減
殺請求)を主張すれば、遺留分に相当する遺贈等は無効になります。
なお、「遺留分減殺請求権」を行使するために、減殺請求の意思表示(内容証明郵便等)をすれば効力
が生じ、特別な法的手続きをする必要はありません。
<法定相続分と遺留分>
相続人 相続分 遺留分
配偶者と子(又は孫) 配偶者1/2、子1/2 配偶者1/4、子1/4
配偶者と父母(又は祖父母) 配偶者2/3、父母1/3 配偶者1/3、父母1/6
配偶者と兄弟姉妹(又は甥姪) 配偶者3/4、兄弟姉妹1/4 配偶者1/2、兄弟姉妹 なし
配偶者のみ 配偶者 全部 配偶者1/2
子(又は孫)のみ 子 全部 子1/2 
父母(又は祖父母)のみ 父母 全部 父母1/3
兄弟姉妹(又は甥姪)のみ 兄弟姉妹 全部 なし
成年後見制度
精神上の障害 (知的障害、精神障害、認知症など)により判断能力が十分でない方、あるいは将来、財
産管理に不安がある方は、不利益を被らないように成年後見制度を活用することが大切です。
成年後見制度は精神上の障害により判断能力が十分でない方の保護を図りつつ自己決定権の尊重、残存
能力の活用、 ノーマライゼーション(障害のある人も家庭や地域で通常の生活をすることができるよう
な社会を作るという理念)の理念をその趣旨としています。
<後見制度>
法定後見 任意後見
判断力が衰えた後の対策。
家庭裁判所が選任した成年後見人が本人の生活
を支援します。
判断力が衰える前の対策。
判断力が衰える前に、公証役場で介護や代理権を与える公正証書を結び、後見人を選んでおく。
生命保険金の活用
亡くなったことが金融機関に知れると、亡くなった方名義の預貯金は凍結され、相続人全員の同意と所
定の手続きを経ないとお金が引き出せなくなりますが、生命保険金は相続人固有の財産として凍結され
ません。また、生命保険金のうち500万円に法定相続人の数を掛けた金額は非課税となるため、現金よ
りも有利です。
生命保険は、保険金負担者、被保険者、受取人がそれぞれ誰かにより、受取保険金等の課税関係が異な
ります。
<被相続人が夫の場合の受取保険金等の課税関係>
保険料負担者 被保険者 受取人 税金の種類
相続税
所得税・住民税
贈与税
生前贈与
一般的に贈与とは、自己(贈与者)の財産を無償で相手(受贈者)に与えることを言います。
そもそも贈与税とは相続税がかかる前に財産を分けてしまう抜け道をふさぐための税金です。 なお、
生活費や教育費の援助は、社会通念上相当と認められるお祝いやお見舞いなどには贈与税はかかりませ
ん。
生前に贈与が行われた場合、贈与税の課税の制度には「暦年課税(毎年 110万円までは申告不要・贈与
税がかからない)」と「相続時精算課税(60歳以上の親から20歳以上の子や孫への贈与なら通算で
2500万円まで贈与税がかからない制度)」の2種類があります。
前者では、親が子名義の通帳と印鑑を預かったままで長年貯めていたものを、進学、就職、結婚等の機
会に渡した場合、渡した時に一括で貰ったとして贈与税がかかってしまいます。もらった財産を贈与者
が自由に使えなければ、暦年課税の贈与にはなりませんので要注意です。
なお、配偶者には、贈与税の配偶者控除という制度があります。婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、
居住用不動産又は居住用不動産を取得するための金銭の贈与が行われた場合、一定要件を満たすことを
条件に、基礎控除110万円のほかに最高2,000万円まで控除(配偶者控除)できるという特例です。
110万円とは別に2000万円の配偶者控除があります。(平成27年4月1日現在法令等)
後者の相続時精算課税の制度は、贈与者が死亡したときに、遺産にこの制度で受けた贈与の金額を加え
た合計額で相続税を計算することになる特殊な贈与の制度です。注意点は、この制度を利用すると、そ
の贈与者からの暦年贈与(110万円までは贈与税がかからない)が利用できなくなります。また、一度こ
の相続時精算課税を選択すると、暦年課税に戻すことはできません。
養子縁組
養子縁組をすると相続人が増え、一人当たり相族分が減るので、相続税を少なくすることができます。
生命保険金、死亡手当金等も、法定相続人が増えると、その非課税枠が増加します。法定相続人に含め
ることができる養子の数は、実子がいる場合には1人、実子がいない場合には2人まで 認められます。
被相続人の孫を養子にすると、養子に財産を相続させた分だけ相続を一代飛ばすことができますが、こ
の場合は相続額の2割加算制度の対象となります。
固定資産の交換の特例
あるものが所有する固定資産を他の者が所有する固定資産と交換したとき、一定の要件を満たした場合
に譲渡所得の課税において譲渡がなかったものとみなされ、取得時期及び取得費は交換前の資産のもの
をそのまま引き継ぐことになります。
この特例を利用すると、相続時に分割するだけの広い貸宅地を所有している場合には、遺産分割などで
もめることがないように、貸宅地の地主と借地人との間で、双方が宅地の分割所有者となることにより
合理的な解決をはかることが可能です。